PBLにおける成果発表会の設計と運営:学習成果の共有と学びの深化を促すには
はじめに
高等教育におけるPBL(課題解決型学習)では、学生が長期にわたり取り組んだ課題に対する成果を、他者に対して発表する機会が設けられることが少なくありません。この成果発表会は、単に成果を披露する場ではなく、PBLにおける学習プロセスと成果を統合し、学生の学びをより深化させるための重要な機会となり得ます。
本記事では、PBLにおける成果発表会の目的、効果的な設計方法、運営上の留意点、そして学習成果をどのように評価・活用するかについて、高等教育機関の教職員の皆様の実践に役立つ情報を提供いたします。
成果発表会が持つ目的と効果
PBLにおける成果発表会は、多岐にわたる目的と効果を持ちます。これらを理解することは、発表会を成功させるための基盤となります。
- 学習成果の共有と可視化: 学生が課題解決プロセスを通じて得た知識、スキル、成果物を具体的に示す場となります。これにより、自身の学びを客観的に捉え、他者と共有することができます。
- プレゼンテーション能力・コミュニケーション能力の向上: 聴衆に対して自らの考えや成果を分かりやすく伝え、質疑応答に対応する機会を通じて、これらの汎用スキルを実践的に磨くことができます。
- 他者からのフィードバック: 教員、他の学生、場合によっては学外の関係者から多様な視点でのフィードバックを得ることで、自身の取り組みや成果に対する新たな気づきや改善点を発見し、学びを深めることができます。
- 評価機会の提供: PBL全体の評価プロセスの一部として機能し、学生の理解度や到達度を測るための重要なデータ収集の場となります。
- プログラム全体の活性化: 学生同士が互いの成果に触発され、教職員や学外関係者との交流が生まれることで、PBLプログラムへのエンゲージメントを高め、コミュニティ意識を醸成します。
効果的な成果発表会の設計
成果発表会を計画するにあたっては、その目的を明確にし、それに沿った設計を行うことが不可欠です。
1. 目的の明確化
まず、成果発表会を通じて何を達成したいのかを具体的に定めます。例えば、「学生の学びを可視化し、振り返りを促す」「外部関係者からの評価を得る」「学生の発表能力を育成する」など、目的に応じて発表形式や評価方法が異なります。
2. 形式の検討
発表会の形式は、目的に合わせて選択します。一般的な形式としては以下のようなものがあります。
- 口頭発表: 限られた時間内で要点をまとめて発表する形式。プレゼンテーション能力の育成に適しています。
- ポスター発表: グラフィカルな要素を用いて成果を視覚的に伝え、質疑応答を通じて個別に対応する形式。多様な聴衆への対応や、深い議論に繋がりやすい特徴があります。
- デモンストレーション/成果物展示: プロトタイプ、ソフトウェア、レポートなどを実際に示し、体験してもらう形式。具体的な成果を示す場合に有効です。
- ライトニングトーク: 数分程度の短い時間で発表する形式。多くの発表機会を設けたい場合や、簡潔に伝える能力を養いたい場合に適しています。
3. スケジュールと場所の確保
開催時期、時間、場所、期間を計画します。他の学事日程との調整、必要な設備(プロジェクター、スクリーン、音響、掲示スペースなど)の確認と手配を行います。オンライン開催の場合は、使用するプラットフォームの選定や、学生・参加者のオンライン環境への配慮が必要です。
4. 評価方法と基準の設定
成果発表会を評価の機会とする場合、評価の目的(形成的評価か総括的評価か)、誰が評価するのか(教員、TA、学生同士、学外専門家など)、何を評価するのか(内容、発表スキル、質疑応答など)、そして評価基準(ルブリックなど)を明確に定めます。評価者に対しては、事前に評価基準の共有と簡単な説明会を行うことが望ましいです。
5. 参加者の設定と広報
誰に成果発表会に参加してほしいかを決定します。学内関係者(他の学生、教職員)、学外関係者(企業、地域社会)、一般市民など、対象に応じた広報戦略を立て、適切なチャネル(学内ポータル、ウェブサイト、SNS、プレスリリースなど)で告知します。
成果発表会の運営上のポイント
設計した計画を実行に移す際には、円滑な運営のための準備と配慮が重要です。
- 学生への事前準備指導: 学生が発表に向けて適切に準備できるよう、発表資料作成のガイドライン、発表時間、質疑応答の準備、リハーサルの機会などを提供します。特に、他者への伝達を意識した資料作成や話し方の指導は重要です。
- 当日運営体制: 受付、会場案内、機材操作、時間管理、写真・ビデオ撮影など、当日の運営に必要な役割を明確にし、担当者を配置します。学生スタッフやボランティアの協力を得ることも有効です。
- 質疑応答・フィードバックを促す工夫: 発表後、聴衆が質問しやすい雰囲気を作る、フィードバックシートを用意するなど、学生が多様な意見を得られるような工夫を凝らします。
- 参加者へのガイダンス: 発表会の目的、タイムスケジュール、各発表の概要、評価方法などを記したプログラムや資料を参加者に配布し、円滑な進行への協力を求めます。
- トラブル対応: 機材トラブル、時間の遅延、予期せぬ質問への対応など、様々な事態を想定し、対応マニュアルや緊急連絡体制を準備しておきます。
大規模な発表会の場合、会場のゾーニング、誘導計画、休憩時間の確保など、より詳細な計画が必要です。オンライン開催の場合は、接続テスト、画面共有の方法、チャット機能やブレイクアウトルームの活用方法などを事前に確認し、学生・参加者への案内を徹底します。
成果発表会の評価と結果の活用
成果発表会で得られた評価やフィードバックは、学生の学びに還元するだけでなく、PBLプログラム自体の改善にも繋がります。
- 学生へのフィードバック: 評価結果やコメントを速やかに学生に伝え、自身の発表や取り組みを振り返る機会を提供します。単なる点数だけでなく、具体的な良い点や改善点を伝えることが、今後の学びへの示唆となります。
- 成績評価への反映: 成果発表会での評価を、PBL科目の成績評価の一部として位置づける場合、その割合や基準を明確に示し、公正に実施します。
- PBLプログラムの改善: 成果発表会全体を通じて得られた参加者からの意見や運営上の課題を分析し、次年度以降のPBLプログラムや成果発表会の設計・運営に反映させます。学生の成果の傾向から、課題設定や指導方法の改善点が見つかることもあります。
おわりに
PBLにおける成果発表会は、学生が自らの学びを統合し、他者と共有し、新たな学びを得るための貴重な機会です。目的を明確にした丁寧な設計と、円滑な運営、そして得られた評価やフィードバックの適切な活用を通じて、成果発表会をPBL教育の一環として最大限に活かすことが期待されます。本記事が、貴学のPBL教育における成果発表会実践の一助となれば幸いです。